チャボの健康相談から 【今村 安孝氏】【肥後チャボ保存会 54号】

チャボの健康相談から 【今村 安孝氏】 【肥後チャボ保存会 54号より】

 

チャボの保存と普及にかかわっていると、飼い始めの初心者の方や保育園などからいろいろな相談が寄せられる。

何の問題もない相談から死に直面した不治の相談まで、ここでいくつかを紹介したい。

 

メスの背中と頭の羽が抜けている

 

繁殖期のメスはオスの交尾を積極的に受け入れる。

オスはメスの背中に乗り、爪で固定、メスの頭部の羽を摘まんでメスの肛門(総排泄腔)を目指して射精する。

かなり不安定で短時間の交尾方法である。

そのため、この行為が頻繁に及ぶと、メスの背中、特に腰部の羽と後頭部の羽は無残に抜け落ちたり、折れたりする。

 

▼ モテるメスは頭が禿げる

 

胸に丸いしこりがある

 

鶏の胸部のくぼみにはいったん餌を貯めておく「素のう」という胃袋がある。

食べた餌は食道を通り、素のうで水分を満たし、そこから少しずつ本来の胃である砂ずり(筋胃)に送られ小腸に至る。

砂ずりでは、そこに蓄えられた石によって餌粒はつぶされる。

これらの素のうと砂ずりは鳥類に特徴的な器官である。

米等を鶏が一気に食べた場合は素のうに餌が滞留して食滞を起こすことがある。

素のうでの食滞は死に至ることがあるので、鶏が好む青米などは少しずつ与えるように注意が必要。

素のうが膨れて苦しんでいるときには硬くなった素のうを揉んで流れをよくしてやる荒療治は効果的だ。

 

肛門から赤い内臓が出ている

 

全ての動物の出産は危険をはらむもの。

特に初産においては命も脅かす危険をはらんでいる。

鶏においてもメスの生みはじめに肛門より大きいの産卵は大変だ。

鶏の肛門は総排泄腔と呼ばれ、糞を排泄する直腸の開口部と産卵や生殖に係る膣部が一緒になっている。

卵は排卵から子宮を下って殻が形成される子宮の末端部で留まるなかで、膣部が肛門から突出したり、卵と一緒に外にはみ出してしまうことがある。

こんな時、メスは力みながら落ちつかない。

肛門から赤い肉片がはみ出していたらすぐに別の箱に移し産卵を待つか、助けが必要。

他の鶏と一緒の場合は、はみ出した部分を突かれ出血多量で急死してしまう。

素人の修復には勇気が必要だ。

突出部を清潔にして、一度中に戻して再度産卵の態勢を整える。

突出部分が大きく出血がひどい場合、予後は悪いのが実態だ。

動物病院で緊急手術が必要となる。

難産や卵詰まりで脱出した粘膜は充血して汚染されやすい。

卵が見えて出にくい場合は卵を割って殼ごと摘まみだすのも緊急の解決策。

初産の卵は小さいが卵殻が、急激に大きくなる時期に発生しやすい。

腰をかがめて動き回り落ち着きがない。

 

足をビッコする

 

チャボにおける脚の異常はケガや栄養が原因なものより、神経性の原因が多くみられる。

前者の場合は治療や餌の改善によって可能だが、後者の神経性の場合は多くがウイルスなどの病原体による感染症が原因だから発症したら治療の見込みが乏しく、繁殖にも適さなくなる。

現在予防には実用鶏にワクチンが広く用いられている。

保存会ではかつてはふ化を一緒に行っていたから、当時はこの病気の主因であるマレック病のワクチンを接種していた。

しかし、今はしていないので脚マヒの多くが、このマレックウイルスによるものと思われる。

私が最近見る脚のマヒは軽度から重度のものまで幅があり、軽度のものはしばらく放置しておくと治癒した鶏も見ている。

立てない、歩けないなら見込みはない。

ビッコ程度ならしばらく様子を見て判断するとよい。

鶏の跛行やピッコは神経性や栄養性の原因が多い。

管理不足で足に糞の固い塊ができてビッコに。

 

爪が抜けないようにぺンチなどで壊して取り除くことも。

 

眼が腫れ涙がでる、眼が開かない

 

最近チャボでよく見聞く症状。

実用鶏でも見れるし、ヒナを多く密飼いにしておくとジワジと全体の鶏に広がり、目が潰れてしまう恐ろし感染症である。

多くは中びなに見られ、目が潤んで涙目が見られ目が開かなくなる。

そんな雛を見つけたら隔離して全体の治療が必要。

眼ばかりでなく眼瞼から頭部が膨らんで見えるので「頭部浮腫症候群」と呼ばれている。
眼の異常は、耳や鼻にも影響するので、食欲が低下し、痩せて発育不良に陥る。

抗生物質の投与で少しずつ改善するが常在菌や薬の効かない耐性菌もいるのでこの病気にかからないような予防、密飼いを避けることが大切だ。

目の周りが腫れて涙目に。

瞬きをする瞬膜が肥厚して泡状の涙が出て、やがて目が開かなくなる。

 

あくびをよくする

 

肥後ちゃぽの特徴である鶏冠が大きいことは鶏にとっては大変不都合なこと。

特に、鼻孔部分に鶏冠が覆いかぶさってしまうので鼻での呼吸がうまくできなくなり、餌などが詰まって塞がってしまう。

眼、鼻、耳は細い管で喉とつながっているので、この管の通りが悪く、出口である鼻孔の通りが悪いと管の中では炎症が起こる。

炎症に伴い膿がたまり管の通りはますます悪くなる。

涙が出るのは初期の症状で、膿は鼻や耳の出口を閉じてしまう。

鶏にとって毎日の観察で耳鼻咽喉、そして目の観察は大切なところ。

耳や鼻に黄色い膿が詰まっていたら細いピンセットや耳かきで塊を取り除くことが必要になる。

後には抗生物質の軟膏を綿棒を使って塗っておくとよい。

眼科で処方される目薬のうち抗生物質が含まれる目薬はチャボにも効く。

しかしこの炎症を起こすのは、ブドウ球菌や大腸菌などの常在菌。

密飼いを避けるなど、いかに健康な状態を維持して飼うか、当たり前で難しい課題である。

目が開かないと鼻、耳そして口腔内にも炎症が広がる。

常在菌が原因で回復に時間がかかる。

眼がうるんで見える。

治療より予防が大切。

眼の初期症状には市販の眼薬は良く効くが、鼻と耳の炎症が進むと抗生物質の内服が効果的。

内服薬の処方には獣医師への受診が必要。

一度罹ると治るまでに日数を要する。

他の鶏にうつらないようまず病鶏の隔離がを行う。
 
 

卵を食べてしまう

 

 

折角、産んだ卵を周りの他の鶏どころか自分のも食べてしまう悪い癖だ。

軟らかい卵やたまたま割れた卵に味をしめ、産卵を待ち構えて食べるようになる。

原因にはこのような環境になるきっかけと、栄養的な要因がある。

餌のカルシウムが不足すると軟らかい卵を産む。

市販の配合飼料には十分なカルシウムが含まれているが、野菜を多く与えすぎるとカルシウムが不足する。

また夏場は水を飲み過ぎてカルシウムが不足がち。

餌からカルシウムの吸収は小腸でおこなわれ、殻が形成される夜の間が最高になる。

そのため、カキ殻などの給仕は夕方与えると効果的。

また、食卵の防止策として偽の戯卵としてピンポン玉や、市販の戯卵を鶏小屋や巣箱に入れて一旦知った「卵はおいしいという学習」をあきらめさせると自然に食べなくなる。

市販のボレー粉ばかりでなく、料理に使った卵の殼を乾燥させ細かく砕いて与えるのも効果がある。

 

さいごに

 

チャボを健康な状態で飼い続けることはむつかしい。

特に肥後ちゃぼは強健で飼いやすい鶏ではない。

鶏繁殖力も低い。

だから保存が必要だし、会員が連携し補い合って守るべき鶏なのだ。

餌をよく食べるか、オスは朝の時を告げるか、鶏冠の色は赤いか、毎朝鶏の変化に早く気付き、対応を取ることが大切だ。

対応はまず隔離、餌や水分の補給が基本となる。

そのためには毎日よく観察して健康な状態を知ることも大切になる。

(肥後チャボ保存会会長、今村安孝:獣医師)